先輩から
「一歩引いて会社を見てみ」
と言われたあの日を境に、僕の中で何かが変わり始めた。
それまでは、上層部の言葉を疑うことなんて一度もなかった。
売り上げも当時はまだ勢いがあって、
「この会社についていけば大丈夫なんだろう」と本気で信じていた。
けれど、視点を変えてみると――
今まで見えていなかった“ひずみ”が急に目につくようになった。
取引先の状況が少しずつ厳しくなってきているのに、
上の人間は特に何か手を打つわけでもない。
会議では昔の成功体験を語るだけ。
現場の課題を伝えても、気付けば話が消えている。
「何かおかしい」
そう思い始めてから、さらに気付いたことがあった。
今まで「厳しい指導だ」と思い込んでいた先輩や上司の態度。
あれは本当に“指導”だったのだろうか?
・突然「いつ辞めるの?」と聞かれる
・21時を過ぎているのに「なんで仕事の途中で帰るんだ」と怒鳴られる
・皆の前で「お前の仕事は2点」と公開採点される
当時は耐えるしかないと思っていた。
こういうものだと、自分に言い聞かせていた。
でも、一歩引いて見てみると――
これはただのイジメじゃないのか?
そう思うようになった。
そして、同じ部署の先輩や歳の近い同僚が、
みんな同じ違和感を抱えていることを知った。
「会社、だいぶ無理してるよな」
「上、何も見えてへんやん」
「お前も気付いてるやろ?」
みんなはずっと分かっていたのに、
見えていなかったのは僕だけだった。
盲目的に尊敬していた上層部への気持ちも、
この頃から少しずつ揺らぎ始めた。
ずっと「この人たちは正しい」と思い込んでいたけれど、
もしかすると――
会社を本当に危ない方向へ導いていたのは、
皮肉にも彼ら自身だったのかもしれない。
この頃からだ。
「ずっとここにいていいのか?」
そんな疑問がゆっくりと心に芽を出し始めたのは。
【第12話】“違和感”が“確信”に変わった日
ブラック企業,パワハラ
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